予防と健康管理ブロックレポート 

 

 

 

1.はじめに

 

今回、予防と健康の講義で観たビデオと、キーワードで検索した論文についてのレポートを作成することとなった。私は論文を検索するためのキーワードを、「産業衛生」と、「メンタルヘルス」を選択した。

 

 

 

2. キーワード

 

「産業衛生」 「メンタルヘルス」

 

 

 

3. 選んだ論文の内容の概略

 

T.事業所におけるメンタルヘルス事例の実態とケアの実施状況

 

丹下智香子   国立長寿医療センター研究所疫学研究部

横山和仁      三重大学大学院医学系研究科公衆衛生・産業医学分野

 

2000 年に当時の労働省は、職場における労働者の心の健康の保持増進を図ることを目的として、事業場において事業者が行うことが望ましい基本的な措置(メンタルヘルスケア)の具体的実施方法を総合的に示した「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」をとりまとめた。これによると事業場におけるメンタルヘルスケアとしては、心の健康づくりに関する現状と問題点を明確にした上で、各事業場の実態と必要性に応じて「心の健康づくり計画」を策定することが求められている。そしてそれに基づき、@労働者自身による「セルフケア」、A管理監督者による「ラインによるケア」、B事業場内の健康管理担当者による「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、およびC事業場外の専門家による「事業場外資源によるケア」の4 つのケアを継続的かつ計画的に行うことが重要とされている。事業場のメンタルヘルスケアの実態としては、東海地方の事業所の産業保健スタッフに対して行われた面接調査によると、全体の84.8 %の事業所においてメンタルヘルス対策が実施されているようである。

そこで事業所の産業保健スタッフ等を対象として、種々の職域におけるメンタルヘルス事例の実態、ならびに具体的なメンタルヘルスケアの実情やその評価などを調査するための質問紙調査を実施した結果、多くの事業所がストレス性疾患の労働者を抱えていることが分かった。全体としてはうつ(47.2 %),自律神経失調症(13.1 %)などの有病者が多かった。そして長期休業者に関する集計から、特にうつは長期休業に至ることが多いことが示唆された。このことから、労働者のうつに関する対策を重点的に行うことが重要だといえる。職場のメンタルヘルスケアとしては、ライン(管理・監督者)によるケアや事業所内の産業保健スタッフ等によるケア、および制度としての教育研修や検診等を実施している事業所が多い。

しかしながら、メンタルヘルスケアの現状の自己評価は、ストレス関連疾患患者率や長期休業者率とは関連しているとはいえなかった。産業保健スタッフ等の主観的評価が客観的事実と合致していないという可能性も考えられ、事業所内でメンタルヘルスケアが効果的に行われていないためにストレス関連疾患患者/長期休業者が多くなるという方向性と、事業所内でメンタルヘルスケアが(ある程度)適切に実施されている場合にストレス関連疾患を隠さずに積極的に対処するため、数値的には患者/長期休業者が多くなるという方向性が入り交じっている可能性も推測できる。

また現在実施しているケアの効果について疑問視する向きもあり、本研究により示された事業所におけるメンタルヘルス事例の実態,ケアの実情などは実際よりは良い方向へ偏っている可能性が否定できない。各事業場がメンタルヘルスケアに関する明確な方針と中長期的計画のもとにケアを実施できるよう、根本的な検討をまず行うことが必要と考えられる。

これらのことから、現時点ではメンタルヘルスケアそのものは様々な形で実施されているものの、労働省が指針として打ち出している「心の健康づくり計画」という観点からは甚だ不十分であり、問題点の改善や効果の定期的な評価等を通じて、形式上

のみではない実効性を伴う制度に改良していく努力が事

業所に求められるといえよう。

 

 

U.メンタルヘルス不調及び脳・心疾患の業務関連性の判断に係る

米国の法令等調査

 

末滿達憲      三井タワークリニック

奥藤達哉      産業医科大学産業生態科学研究所健康開発科学

宮崎彰吾      明治大学法科大学院

堀江正知      産業医科大学産業生態科学研究所産業保健管理学

 

近年、日本においては、精神障害または脳血管疾患や虚血性心疾患(以下、「脳・心疾患」)との因果関係があると解釈する範囲が拡大してきた。しかし、本邦以外においても、同様の解釈であるとはいえない。

海外で事業を行う企業は、その活動する国・地域における法令、判例を把握することが望まれるが、仮に米国の場合、米国の政府機関、大学等のホームページに掲載された公式文書を対象として、過重労働による健康障害に関係する法令等を調査すると、民間事業所に係る業務関連休業傷病統計(2004)により、精神障害は約3,000 例(常勤労働者10,000 人当たり0.3 例)にのぼるが、脳・心臓疾患は合計で500 例以下であったことが判明した。このことからはメンタルヘルス不調、脳・心疾患を業務関連疾患ととらえる考え方が普遍的でないことがうかがえる。本邦と米国のこのような差異をもたらす背景を法制度の違いから探ると次の2 点が考えられた。

1)雇用者による労働者の健康管理義務本邦におけるような労働者に対する健康診断を実施する義務は、有害業務に係るものに限定されており、むしろ一般の健康診断はADA (米国障害者法)によって原則禁止されている。

上述の業務関連性疾病の報告についての規則改正時にも特に精神疾患についてプライバシーの観点からの議論がなされ、業務関連精神疾患として報告する対象が、被雇用者が雇用者に対し任意に提出したものに限るとされたことに留意すべきである。

すなわち、メンタルヘルス対策においては差別、プライバシーの侵害との謗りを受けぬよう、任意性、秘匿の確保が特に重要であろう。

2)労働時間の制限

いわゆる過重労働の指標として、労働時間はある程度の客観性を有するものであることは自明である。労働時間は日本、米国いずれにおいても週40 時間に制限されている。しかし、制限の緩和要件が米国において緩やかであり、特に、本邦における監督・管理者より広い範囲がいわゆるホワイトカラー・イグゼンプションとして割増賃金支払対象から除外されている。すなわち、過重労働の一つの指標たる労働時間に対する規範性の強さに大きな差が見られる。

なお、本邦においてもこの制度を参考にしつつ労働時間規制の除外が検討されている。

本邦において、いわゆる過重労働による健康被害対策が司法の判断に促される形で進められてきたことは否めない。これに対し米国においては長時間労働による健康被害に言及していると思われるものは見あたらない。

その原因の一つとして、両者における「働き方」そのものの差異も挙げられよう。欧米が扱うoverwork と本邦でいういわゆる過重労働とでは大きな隔たりがあることも指摘されている。いわゆる「過労死」はわが国の社会経済状況の経緯や日本人固有の労働観と関係しているのであれば、その対策は医学的,行政的介入のみならず、社会学的調査・研究,対策が求められる。

しかし、最近,米国でもこの問題に係る文献レビューの刊行,会議の開催等がみられ,近い将来には課題となる可能性も考えられた.

 

 

 

4. 選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察

 

昨年の日本における年間自殺者数は過去最悪の33048人で50年前の2倍以上にも及んでいる。このなかで大きな割合を占めていると思われるのが、うつなどの精神疾患であり、特に職場での疲労、ストレスによるうつ病である。

これには例えば、自身の勤める会社が買収されることで、給与が変化したり、仕事量が増えることにより休みが取れなくなる状態が続き、次第に不眠に悩まされ、最終的にはベッドから抜け出せなくなるうつ状態になる例がある。また会社が成果主義に変化していくことで突然の部署の異動を受けたり、それによって部下が年上、または上司が年下という状況が生まれることでストレスを感じ、うつ病になる例もあり、いずれにしてもコミュニケーションの難しくなった状況下で余裕がなくなることで、自分の中でのコントロールができなくなる精神的苦痛が原因だと考えられている。

こうしたコミュニケーション不全は大きく変わりつつある日本社会には、この後さらに増加していくことが考えられる。世の中がストレス社会となっていくなかで、企業は危機意識を持ったり、国からのアナウンスを受けることにより、産業衛生的なメンタルヘルスケアは幾分かは改善された。しかし、産業医療スタッフ等のメンタルヘルス対策における主観的評価が客観的事実と合致していない部分や、システム的にいまだ未成熟で、治療するツールとしてうまく機能していない場合もある。

しかしこの分野の関心は高くなってからまだ日が浅く、これから改善される余地は多く、社員同士のコミュニケーションの場を設けるなど、企業側も更なる努力をしていくことで、効果の増大が期待できる。

また日本の日本社会独自の就労システムも職場における精神疾患の増大に影響を与えていると思われ、日本の高度経済成長期から続いた残業に依存する企業の体質が職員の精神を圧迫している可能性が高い。

精神にまで異をきたすような過重労働を減少させるため、国や自治体が新しい雇用の形態を提案・規制していく必要があるだろう。欧米からホワイトカラー・イグゼンプションなどの新しい観念を取り入れるなども選択肢の一つである。だがこれらが日本社会の日本人のメンタリティーにフィットするかは未知数であり、熟考が必要であると思われる。

そもそもストレスとは生体は各種ストレスホルモン分泌を増加させ、ストレッサーに対する防衛機構を働かせる反応のことを示す。この反応を起こさせる因子のことをストレッサーといい、通常このストレッサーをストレスと呼称することが多い。ストレスは適度であれば、交感神経系を目覚めさせ、判断力、行動力を高め、そのため「ストレスは人生のスパイス」という見方も可能だ。

しかしストレスが過剰で慢性的になれば不快ストレスとよばれ、これにより精神的な病気は引き起こされる。急性ストレスでは、慢性ストレスのように病気につながらないため、慢性ストレスを取り除き、急性ストレスを日々の生活にうまく組み込んでいくことが、現代社会を快適に過ごす秘訣といっても過言ではないだろう。

 

 

 

5. まとめ

 

医学の進歩は著しく、かつては治療困難であった病気も、特効薬の開発、技術の進歩などで完治するものなどもある。そのなかで社会の情報化が進み、人々の生活が変化してきていることもあり、精神的疾患や、ストレスを原因とした病気の疾病率は増加してきている。そうした社会の状況下でメンタルヘルスの重要性が論議されるようになった。

メンタルヘルスとは、健康のなかで精神にかかわる健康を保つことであるが、精神的健康というものは定義が難解で、古くから医学的に主として論じられてきた分野ではないので根本的なケアはなかなか難しいものがある。

だがまだ社会が関心を持ち始めて間もない問題でもある。これから医学だけでなく、社会科学、人文科学の知見と連携して、日本人に適合した仕組みを論議していくことが重要であろう。